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子供の読み聞かせ絵本に「世界昔話」というジャンルの作品群がありますね。
世界昔話は世界各地の伝承や民話を集めたものが多く、グリム童話、アンデルセン童話、イソップ童話が日本でも特に有名です。
今日はこの3つの童話集の違いについてお伝えします。
まず、3つの童話はすべて作者の名前がつけられているのですが、イソップだけずーっと昔の古代ギリシア人です。
グリム兄妹とアンデルセンはグリム兄弟のほうが数十年先に生まれていますが、同じような年代の人たちで、お互いを知っていて出会ったこともあります。
それでは、それぞれの特徴を簡単に御伝えします。
目次
イソップ物語は古代ギリシャの作家の創作
イソップ童話は古代ギリシアのアエソポス(英語でイソップ)が作り口承で伝えた童話集といわれます。
でも、とにかく大昔のことなので、確実とはいえません。
なにしろ紀元前6世紀のギリシアの人なのですから。
アエソポス(イソップ)は古代ギリシャのサモスの市民イアドモンの奴隷の身分の人でした。彼は主人を退屈させないために、処世術や道徳を寓話の形にして語りました。
「寓話(ぐうわ)」は、比喩(たとえ)を使って人間の普段の生活の営みを表現し教訓を伝えるものです。
イソップ童話は動物を擬人化させた話がとても多いのですね。「ウサギとカメ」「アリとキリギリス」「キツネとブドウ」「田舎のネズミと町のネズミ」などなど……。
たまに「北風と太陽」のように別のものを擬人化させたのもあります。
そういうところがメルヘンぽくて、子供受けしますね。幼い子供には、グリムやアンデルセンよりイソップ物語がいちばん理解しやすく、教訓がすっと頭の中に入ってくると思います。
グリム童話はグリム兄弟が集めたドイツ民話集
グリム童話はドイツのグリム兄弟(兄ヤーコブと弟ヴィルヘルム)がもともと主に西ヨーロッパに伝わっていた民話・伝承を集めたものです。
それらの民話の多くは、現代の倫理観がまだなかった昔に作られたものが多く、残酷なシーンがたくさんありました。
でも、グリム兄弟が活躍した19世紀初頭は、そろそろ現代的な倫理観が社会に根付きはじめていたのです。
グリム兄弟は「グリム童話・初版」に伝わる民話をそのまま載せました。ところが、この童話集は空前の大ヒット作になって、たくさんの親が子供に読み聞かせるようになったのです。
そして、子捨てや子殺し、人食い、近親相姦など残酷なシーンは子供に読み聞かせるにふさわしくない、なんとかならないかというクレームが寄せられるようになりました。
グリム童話はグリム兄弟の生存中に7回改版されていますが、版を重ねるごとに残酷なシーンがけずられていき、マイルドになっていきました。
たとえば、実母唐の壮絶なイジメを継母(ままはは)からのいじめに変えたり、復讐で残忍に殺害する結末を寛大な心で許してハッピーエンドに変えたりしたのです。
今、日本で子供向けに販売されているグリム童話はこの「第7版」の改訂版です。
本当は怖いグリム童話というのは、「初版」のことを指しているんですよ。本当=初版は、残酷で怖いシーンが多かったのです。
グリム童話は民話なので、中世から近世ヨーロッパの雰囲気がよく表れています。
また、登場人物に多面性がなく、善人は善人、悪人はあくまで悪人というシンプルなキャラクター設定の話が多いので、教訓がさらりと頭の中に入りやすく子供にも理解しやすいです。
アンデルセン童話はデンマークの作家の創作作品集
アンデルセン童話は、デンマークの作家、ハンス・クリスチャン・アンデルセン(1805~1875)が作った作品集です。
人魚姫のようにもともとあった伝承を下書きにした作品もありますが、基本的に創作です。
だから、アンデルセンの内面が作品に色濃く表れているという特徴があります。
アンデルセンは貧困の中で子供時代を過ごし、将来の夢はオペラ歌手という芸術家肌の青年でした。
そのセンチメンタルでナイーブな性格が作品の登場人物の心理描写によく現れていて、なんだかはかなげで切ない詩的なお話が多いです。
グリム兄弟とアンデルセンは出会ったことがあった!
ドイツのグリム兄弟とデンマークのアンデルセンは、実は直接会ったことがあります。
年齢的には、グリム兄が1785年生まれ、弟が1786生まれの年子の兄弟、アンデルセンは1805年生まれです。
アンデルセンが生まれたころ、グリム兄弟は大学生でした。
どちらもヨーロッパで暮らしていたので、そんなに遠く離れてはいませんね。
実は、1844年にアンデルセンはドイツへ行き、グリム邸を訪れて兄のヤーコプ・グリムと会っています。
でも、アンデルセンの訪問はアポなしだったこともあり、ヤーコプ・グリムはアンデルセンのことをまったく知らなかったのです。
アンデルセンも詩人・童話作家として知られてる人物でしたが、それは自国デンマークでのこと。
グリム兄弟、特に兄のヤーコブは童話作家である前に、大学の教授で、文学者、言語学者、文献学者として活躍する知の巨匠でした。
アンデルセンはもともとナイーブな性格な人です。そのときは、気まずい思いをして短時間で去ってしまったのでした。
ところが、この話には後日談があります。数週間後、今度はヤーコプ・グリムが弟ともにアンデルセンを訪ねてデンマークのアンデルセン邸を訪れたのです。
弟のヴィルヘルム・グリムがアンデルセンのことを知っていて、あとえ兄にそのことを話し、一緒に会いに来たのでした。
アンデルセンはびっくりしましたが、同時にとても喜び、その後、彼らは交流するようになったといわれます。
あくまで通説なので、本当に仲良しだったのか顔見知り程度だったのかは謎です。
でも、インテリ民族学者が民話研究の1つとして変遷した「童話集」と繊細な詩人が創作した「童話集」では、同じ童話でもアプローチや中身がかなり違っています。
そういう違いを知って読み返すのも、おもしろいですね。