この記事を読むのに必要な時間は約 13 分です。
「グリム童話」は、グリム兄弟がヨーロッパにあった昔話・伝承を集めた童話集です。
「ヘンゼルとグレーテル」は、もともとドイツのヘッセン州に伝わる民話で、14世紀前半に起こったヨーロッパの大飢饉の頃の話だと伝わります。
だからなのか、かなり陰惨な中世ヨーロッパの雰囲気が出ております。
テーマは「姥捨て」、ではなく「子捨て」の話です。
「グリム童話」は当初、ほぼ伝承をそのまま載せたのですが、発刊された19世紀の道徳観ではひんしゅくを買う内容が多かったため、グリム兄弟の生前に7回改変されています。
その都度、性的・残酷な描写が、ソフトに変えられました。
つまり、「グリム童話」の「本当は怖い」の「本当は」の部分は「初版は」ということなのです。
目次
「ヘンゼルとグレーテル」の簡単なあらすじ
■親が子供たちを捨てようと計画
ある森に、木こりの家族が暮らしていました。
木こりには再婚した妻(継母)と、ヘンゼル、グレーテルという兄妹の子供がいました。
家は貧しく、さらにその年にひどい飢饉(ききん)が起こったため、一家はその日の食事にも困るようになりました。
そんなある日、継母が「このままではみんな飢え死にしていまう。子供たちを森へ捨てましょう。」と木こりに提案しました。
木こりは子供たちを想ってためらいましたが、継母に押し切られてしまいます。
その2人の会話を、ヘンゼルとグレーテルはこっそり盗み聞きしていました。
捨てられると悲しんで泣くグレーテルをなぐさめながら、兄のヘンゼルは何とかしようと考え、暗くなると「光る石」を集めました。
■石を落として目印に!
次の日、両親の計画通りヘンゼルとグレーテルは森の奥へ連れて行かれました。ヘンゼルはその道すがら、集めた「石」を落としながら歩きました。
2人は森の奥に置き去りにされますが、ヘンゼルが落とした暗くなると「光る石」を目印にして、家に帰ることができたのです。
2人の姿を見て父の木こりは喜びましたが、食べる物もない貧しい暮らしは変わりません。
仕方がなく、ヘンゼルとグレーテルは、再び親に森に捨てられることになったのです。
■パンくずを落として目印に!
目印にした「光る石」を集められないようにと、今度は継母にドアに鍵をかけられてしまいました。
それで、ヘンゼルは食事に出たパンを食べずにとっておき、森の奥へと連れて行かれる道すがら、細かくちぎって「パンくず」を落としました。
ところが、「パンくず」は鳥に食べられてしまったのです。
とうとう2人は、家に帰ることができなくなってしまいました。
■「お菓子の家」を発見する
ヘンゼルとグレーテルが森の中をさまよっていると、森の中に小さな家がありました。
その家は、クッキーでできた屋根、チョコレートでできた柱、あめ細工の窓でできた「お菓子の家」でした。
お腹のすいていた2人は、大喜びで家にかじりつきました。
すると、家の中から1人のおばあさんが現れました。おばあさんは優しく2人を家の中に招き入れ、おいしい食事をたっぷり食べさせてくれて、美しいベッドを与えてくれました。
ほっとした2人は、ぐっすり眠りにおちました。
■ヘンゼルとグレーテル魔女を倒す
2人が眠ると、おばあさんはさっきと全く違う意地悪な顔になり、ヘンゼルを家畜小屋に閉じ込めてしまいました。
そして、翌朝、グレーテルに、「ヘンゼルを太らせて食べるから、そのための食事を作れ」と命じたのです。
昨日の優し気なおばあさんとは別人のようでした。実はおばあさんは、悪い魔女だったのです。お菓子の家は子供をおびきよせるためのワナでした。
それから4週間経ちました。魔女はヘンゼルが太って食べごろになったか確かめます。
目の悪い魔女はヘンゼルの指を触って太ったかどうか確認しましたが、ゴツゴツしていてまったく太った様子がありません。
実は、ヘンゼルは指の代わりに食事のときに残った動物の「骨」を出していたのです。
魔女はヘンゼルが太るのを待っていましたが、ついに我慢できなくなります。そして、グレーテルに、ヘンゼルを焼くためかまどに火をつけろと命じました。
魔女はグレーテルを先にかまどで丸焼きにしてしまおうとたくらみますが、グレーテルはそれを察知しました。
そして、「やり方がわからないから教えてください」とお願いしました。
魔女がお手本を見せるため、かまどに近寄ります。
そして、かまどの中に頭を突っ込んだ瞬間、グレーテルは精一杯の力で魔女を突き飛ばしてかまどの中に入れ、鉄の扉を閉めかんぬきをかけて閉じ込めたのです。
「ギャ――――!!」
魔女は呪いの叫び声を上げながら焼け死にました。
それから、グレーテルはヘンゼルを助け出し、魔女の家にあったたくさんの財宝を持って家に帰りました。
ヘンゼルとグレーテルが無事に家に戻ったことを知った父親は、たいへん喜びました。
2人を邪魔に思っていた継母は、都合のよいことにすでに病気で亡くなっていました。
それから、木こりのヘンゼル、グレーテルの兄妹は、3人で仲良く暮らしました。
「ヘンゼルとグレーテル」の教訓
子供に読み聞かせる童話や昔話は、たいてい「教訓」が含まれています。
「ヘンゼルとグレーテル」の教訓は・・・
甘い誘いに乗って悪い奴のワナにはまらないこと
でしょう。
お菓子の家と優しい言葉に気を許してヘンゼルとグレーテルは、ピンチに陥ります。
でも、知恵と勇気を振り絞って、魔女を退治して勝利します。
だから、どんなときでも最後まであきらめずにがんばることも大事と教えてくれます。
でも、親に2回も捨てられた時点で、なかなかハードな体験をしていますね。
大人なんて信用できないって思ってしまいそうです。
【感想】子供向け絵本の内容も十分怖い
絵本の「ヘンゼルとグレーテル」を簡単にご紹介しましたが、子供向けの話でも十分怖いと思いませんか?
中世ヨーロッパの庶民には、「子捨て」の風習がありました。
これは日本昔話の「姥捨て(うばすて)」と同じ発想です。(捨てるのが老人でなく子供なだけ)
家族全員が飢え死にするぐらいならその中の「弱者」を切り捨てようという発想です。
そう考えざるを得なかった当時の庶民の切羽詰まった貧しさがよく分かります。
そして、魔女が子供を食べようとしていることも怖いです。魔女は中世カトリック社会の「異端」の象徴です。魔女はよく人肉食をする設定で描かれます。
そして、ゾッとするのは、幼い少女グレーテルが、自分(と兄)の身を守るために魔女を焼き殺し、その財宝を奪って喜んで帰ったことです。
弱肉強食の世界ですよ。
この話、ハッピーエンドなはずですが、なんだかこの兄妹を手放しで応援できない気分になります。
「ヘンゼルとグレーテル」は「お菓子の家」だけがメルヘンチックな、ちょっと心がざわつく話でした。
「グリム童話」初版との違い
現代、「グリム童話」として伝わる「ヘンゼルとグレーテル」の話は、「グリム童話」の「第7版」のものです。
第7版と初版との大きな違いは、ヘンゼルとグレーテルの母親の設定です。
初版では継母ではなく「実母」だったのです。
「子捨て」の風習があったなら、実母が口減らしのために子供を捨てようと言い出すのあり得ると思いますが、この話を読んだ当時のドイツの母親たちから猛烈な抗議があったそうです。
「グリム童話」は、主に母親が子に読み聞かせる子供向けの話ですから、情操教育上良くなかったのでしょう。
初版ではグレーテルがかまどに魔女を突き飛ばすとき、魔女に母親の顔を重ねています。
そこには、自分たちを捨てた母に対する憎しみ、恨みという「負の感情」がしっかり描写されていました。
それでは怖すぎるということで、第4版から実母を継母に変更したのです。
「グリム童話」は、このパターンの変更が多いです。「白雪姫」の継母も元は実母でした。
あとは、最後に2人が家に戻ったとき、「継母が病気で死んだ」となっていますが、初版は「実母はいなくなっていた」でした。
・・・実母はどこへ消えたのか?
実母が行方不明というところと、先ほどお伝えしたグレーテルが魔女を殺すとき母の顔を思い浮かべたというくだりから「魔女=母親」ではないかと推測する人もいます。(パロディで描かれることが多い)
いずれにせよ、困窮する庶民、魔女(異端)という中世ヨーロッパ社会の「闇」が描かれたおもしろい作品だと思います。
【関連記事】
↓